今日は、その白い背中に爪をたてる
今日は何時に終わる?からスタートしたメールに、丁度撮影が終わった頃にまるで見ていたかのようにかかってくる電話。


こんなの、束縛する彼氏と一緒だ。


…私にも逃げるのには理由があった。


かねてより懸念の週刊誌ネタの心配(よく今まで載らないものだ)、私の将来の心配。


30歳にもなるいい年した女が5つも年下の男となに遊んでんだって感じだ。


結婚するには遅い年になってきたし、するつもりもないし。


何より私達はセフレ。



それに聞きたいことは沢山あった。


どうして私をセフレに選んだの、どうして会いに来るの、どうして優しくするの。



「どうして連絡してくるの。」



鳴り止まない電話。


きっぱりと面と向かって言わなかったからいけないんだろうか。


ただ連絡がとれないだけだと思ってて、会いたくないっていう意思表示だと分かってないとか?


職業柄、どちらかの仕事が立て込んでいると連絡に応えないこともあるので、私が電話に出ないのはこれが初めてではない。


…まあ今のところあいつが私の連絡に応えないところには遭遇していない、何せ私から連絡することは一度もないから。



長くて無駄に綺麗な廊下を突き進んだ先に、大きなガラス製扉。


上下を残して他は曇っているそれを押し開けばそこに彼はいた。



「アキラ…また急なアポイントメントだね、君はいつもそうだ。
携帯電話という便利なツールがあることを忘れていないかい?」



ハスキーな声がノックもせず入ってきた私を見て窘める。


グレーの瞳は優しく細められて、歓迎の意を表すように長い両腕が広げられた。



「いつものことでしょ、クロウ。
それより久しぶり、相変わらずイケメンで困っちゃう。」



私は躊躇いもなくその大きな胸に飛び込んで抱きしめる。


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