今日は、その白い背中に爪をたてる
契約に乗り気になった正当な理由がなければYESと言ってはくれないらしい。


何十cmも上からじ、と端正な顔に真顔で見つめられるのには辛いものがある。


私もそんなに低い方ではないが、彼はアメリカ人プラスモデル並みのハイルックスのせいで随分と背が高いから威圧感も相当。


俯いた額に視線が集中するのを感じて、私はとうとう溜め息を吐いた。



「ああ……もう、分かった、話す、話すからその顔をやめて、私の負けだわ。」



ぐい、と胸を押して距離をとるとイタズラに成功した子供みたいに笑うクロウ。


それをジロリと睨みつけて紅茶、と低く唸るように言えば慌ててOKと支度を始めるから笑った。



「本当にいいのか?」



私が事の顛末を話す間口を挟むことなく大人しく聞いていたクロウは終わるなり怒ったように言った。



「何故?」



彼がわざわざ日本語で尋ねたのにもかかわらず、私は反射的に英語で応えた。


ごまかすんじゃない、と再び日本語が返ってくるが私にはそんなつもりは微塵もなかった。


だから、言ったじゃない。


素直な気持ち。


初めの関係を崩しルール違反を犯し、私は彼を愛した。


そしてそれは彼の人生、私の人生それぞれの妨げになってしまいそうだと。


罪を犯してまで伝えるつもりはない、私達は相容れないと。


同じことを二度、今度は更に明確に話した私を見て、クロウはふうーと深く息を吐く。


グレーの瞳がしばし閉じられて、次に開かれた時にはもうビジネスマンの顔をしていた。



「そこまで言うなら…本気なんだね?
少なくとも三年間は帰れないことを承知でいるならこちらとしては何も言うことはない。
いいだろう、ではここにサインを。」



ソファから立ち上がってデスクへ歩いて行った彼は、戻ってきた時数枚のプリントを手にしていた。



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