今日は、その白い背中に爪をたてる
「さとみ。
みたい、じゃなくて事実おばさんなのよ。
いや違うな、おっさんか?
とにかく目の毒だから何か羽織ってくれないかしら?」


腰に巻いていたパーカーを外して、彼女の白い肩にフワリとかける。


ありがとうと呟いて袖を通す彼女、SATOMIは同じ女の私でもくらりとくるほど妖艶なのだ。


照れ気味に伏せられた、そのまつ毛だって流石は大手化粧品メーカーの看板モデルだ。


スカウト当時の初々しさは欠片も見当たらない。


羨ましい、見目麗しくて。


そんな嫌味な感情が顔を出すのは日常茶飯事だけれど。


最近あちこち痛くて、と己の老化現象についてつい優しいさとみに愚痴ってしまっていると、彼女のマネージャーが慌てて駆けて来る。


控室へと連れて行かれた彼女を見送り、私は側にあったパイプ椅子に腰かけ深い溜め息を吐いた。


『あ、また溜め息。
ダメだよ幸せ逃げちゃうから』


「……チッ」


なんで出てくんのよ、馬鹿。


ふとした瞬間に聞こえてくる声、私はそれに一々惑わされて舌打ちする。


どんなにあの背中から逃げても逃げても、私の心は囚われたまま。


「……嫌だ、こんなの」


手入れの怠った髪に手を突っ込み、ワシャワシャと掻き回した。


と、その時。


「アキラちゃあ〜ん、げ、ん、きっ?」


「……うざ」


スタジオの入り口の方から聞こえる女の声が誰のものかなんて、振り向かなくても分かりきってる。


「相変わらず口が悪いんだから。
プリン差し入れしといたから後で食べなよ」


私の隣に腰かけたのは、パンツスーツを着たこれまた美人で、私のささくれた心を更に傷だらけにする。


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