今日は、その白い背中に爪をたてる
差し入れに対する礼も言わない私の顔を彼女は覗き込んで、苦笑した。


またやっちゃったの、アキラって。



「も〜あんたらしくないわね、さっさと言えばいいのに。」



「……うるせえな、余計なお世話なんだよ。」



「機嫌悪っ!!
あんたはレンズ越しにしか素直に物事を捉えられないわけ?」



少し大袈裟に彼女が仰け反る。


そう、私はレンズ越しにしか物事を捉えられない女。


私、堂林アキラはカメラマンだ。


名前が男っぽいせいか見た目と性格も女として残念に育った30歳独身。


色素の薄い髪と瞳に平均身長、平凡顔の至って普通の女。


性格はこんなんだし見た目は普通だし何の取り柄もないけれど、カメラだけが私の武器となった。


嫁の貰い手は皆無だが、仕事はありがたいことに引く手数多である。


今日はOG化粧品『Marria』の撮影で私はここにいる。


ちなみに隣に座る美人は『Marria』担当の営業宇野皐月、悪友のようなものだ。



「…どうしたら、晴斗との関係を絶てるのかな。」



晴斗、と私が名前を口にすると皐月の表情が曇る。


私と晴斗の関係を知る彼女は弱音を吐く私に必ずその顔をみせる。



「…やっぱり、やっちゃったの。」



「そう、ヤッちゃったの。」



「ちょ、あんたが言うと字が変わる!!
卑猥だ、やめてよ!!」



失礼な、ちゃんとカタカナの方の意味で言ったっつーの。


正しい表記はカタカナなんだから。



ーピリリリリリ



と、私のジーンズの後ろポケットにいれていた携帯が鳴った。


可愛げない着信音だね、とケチをつける友人の椅子を軽く蹴って画面を見る。


表示された名前に、喉の奥がきゅっと痛んだ。



「…………なんでよ。」
< 4 / 48 >

この作品をシェア

pagetop