今日は、その白い背中に爪をたてる
「晴斗……。
なんだいたならもっと早く言ってくれよ、晶ちゃんが、」



「分かってる。」



いつからそこにいたのか、カウンターの奥から歩いてきた晴斗はソウさんの言葉を遮って真っ直ぐ私だけを見つめ歩いてくる。


何年もの付き合いでも見たことのない、恐ろしく感情の読めない無表情で。



『ねえあれ、戸川ハルトじゃない!?』



『え!?嘘だろ、こんなとこに。』



周囲がざわめく中私だけが肉食獣に狙いを定められたみたいに固まって、息も止まるほどだった。


カウンターを回り込んでやってくる晴斗がスローにうつって。


なんでここにいるの、どうして怒ってるの。


あともう少しで逃げきれたのに。


そんな想いが頭の中を駆け巡っていた。



「晶。」



「っ、」



手首を掴まれて身体がビクリと揺れる。


その痛みが怖いと思う反面、温もりに嬉しいと思う自分がいて。



ああ、私ってほんとに救いようのない馬鹿ね。



あんなに逃げようと必死だったくせに。



久しぶりに晴斗の声を聞いて、顔を見て、それだけで心は舞い上がる。



「行くよ。」



何も言えずに俯く私を立ち上がらせて、晴斗は歩き出す。


早歩きで店を出る背中を見て慌ててついていくけれど不安で一杯で、一瞬振り向いた時ちらりと見えたソウさんが微笑んでいたのが余計に不安を募らせる原因となった。


店を出たら晴斗は有無を言わせず私を路駐していた車に押し込んで、行き先も告げずに夜道を走らせた。


本当に、見たことないくらい晴斗が怖い。


車内の雰囲気はとてもじゃないけど話しかけることなんて出来ない雰囲気で。


私は訳も分からぬまま部屋まで連行されてしまった。



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