今日は、その白い背中に爪をたてる
そしてじっと私の唇を見つめて。


晴斗は顔を傾けて私に近づいた。



「っ……!!」



無意識による反射だった。


落ちてくる唇を避けたのは。



ーキスされる。ー



頭でそう理解するよりも先に、身体が動いてしまった。


しまった、と思って見上げた時にはもう怪訝そうな、ともすれば悲しそうな晴斗が私の真意を探る為に見下ろしていた。



「晶?」



「……唇が荒れてるから、今日はだめなの。」



咄嗟に思いついたウソは滑稽以外の何物でもなかった。



「でも今俺にキスしてくれたじゃない。」



「……それは、」



ごもっともな意見に返す言葉もないが、ここで引いては余計に辛くなる。


折角身体が本能的に反応した、想いを断ち切る方法を。



「もっとプルプルな時の唇に、キス…してほしいから。」



かあ、と顔に熱が集まるのを感じる。


言ってる途中で既に羞恥に耐えきれなくなりそうだった。


こんなセリフ、バカ女だと常々私が思っているぶりっ子と変わりないじゃないか。


あり得ない、私らしくない。



「プルプル……。」



…それでも彼には十分効いたらしい。


ぼんやりと繰り返したかと思うと、次の瞬間には華が咲いたような笑顔になって分かったと頷いた。



「じゃあまた今度してね。」



「えっ、ああ、うん………」



あまりの満面の笑みについ頷いてしまった。



さっきまでのシリアスはどこへ?



晴斗は随分と嬉しそうにニコニコしながら、困惑する私をよそにあちこちにキスをしていく。



ーな、なんか変な気分になってきたー



ちゅ、ちゅ、と玄関に響く可愛らしい音が気分を煽る。


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