今日は、その白い背中に爪をたてる
ーー窓の外、空が白んできた頃に私はふと目を覚ます。


何故だかいつもこの時間に目が覚めてしまうのだ。



ーいや、違う。ー



床に散らばった衣服を拾い上げて身につけながら後ろを振り返る。


そこには一人で眠るには少々大きすぎるベッドに惜しげもなく美しい背中を晒して眠る男がいた。


同じ時間に目が覚めてしまうのは、私が意図的に彼に会うことを避けているからに他ならなかった。


シミ一つない、真っ白な背中。


それを見ては私は溜め息をつくのだ。


毎回同じことの繰り返しだ、同じ時間に目を覚まし、同じ光景、数時間前までこの手で抱きしめていたあの背中を見て後悔の念に押し潰されそうになる。


そうして化粧も施さない生まれたままの唇でそれにキスを落として逃げるように部屋を出る。



ーーだけど今日は違う。



女の私でも惚れ惚れする背中を撫でて。


普段より少し幼く見える寝顔を手で包み込む。



「さよなら、晴斗。」



この顔も見納めだ、しっかり目に焼きつけよう。


微笑みながらそっと唇を重ねる。


ポタリと晴斗の顔に雫が落ちたけれど、見ないフリをして扉に向かう。



「ずっと愛してるから、頑張って。」



ーばいばい。ー




ーーーー…………





ーープルルルルル



『…はい、もしもし?』



「あ、もしもしおはよ。」



『うん…何かあった?』



「ふふふ、寝てた?
ごめんね、ちょっとお願いがあって…」



*****



「…あんた、突然過ぎない?」



「そう?」



澄ました顔でジュースを飲む私を、向かいに座る悪友は呆れた目を向けてくる。



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