今日は、その白い背中に爪をたてる
『瑞原晴斗』という今一番見たくない名前の表示は、私の脳をフリーズさせた。



『会いたくなったら電話するね。』



なんて、初めて身体を重ねた日のことを思い出して切なくなる。


画面を見つめるだけで電話に出ないでいる私を見て皐月がひょいと顔を乗り出したかと思うとすぐにああ、と声を出す。


そして出ろよと言わんばかりの痛い視線を受けて、耐えきれずに私は渋々スライドさせた。



「……もしもし?」



恐る恐る声を絞り出せば、もうすっかり聞き慣れてしまったあの中途半端に低い声が晶?と呼ぶ。


あいつが発音すると正確に漢字表記に聞こえるのは職業柄なのか。



『今仕事中?電話いい?』



「大丈夫、休憩中だから。
それで……」



何か用?となるべく冷めて聞こえるよう尋ねる。


内心嬉しくて嬉しくて仕方ないくせに。


けれど晴斗は私の意図には気がつかないみたいで柔らかい声のまま。



『今週一杯オフなんだ、だから今日うちに来ないかと思って…』



心臓を、抉られた気分だ。


行けるわけないじゃないか、昨日会ったばっかりだ。


私もこいつも忙しいのだからせいぜいがとこ月一だっていうのに、なんで今回に限って連チャンなんだよ。



ーー今まで一度だってオフの日に会おうなんて言わなかったくせに。



「…初めて聞いた、晴斗のオフの日なんて。
行けるわけないでしょ昨日会ったばっかりなんだから。」



本命と会いなさいよと言いそうになるのをなんとか飲み込んで。


イヤミに聞こえないでもないセリフを吐く。


私の言い草に晴斗は急に黙ったが、電話の向こうであいつが少しムッとしたのが手に取るように分かった。


暫くして不機嫌な声が用事があるのかと問うので、既に構想済みの解答を口にする。
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