今日は、その白い背中に爪をたてる
*****



「……実はさ、」



飲み物すら用意していないダイニングテーブルに向かい合って座ってから数分、先に口を開いたのは晴斗だった。


私は窓から見える月を眺めるのをやめて晴斗を見た。


腕時計の針はてっぺんをさしている。



「うん。」



頷いて続きを待つものの、今更何に躊躇うのか彼は眉をきつく寄せてじっと自分の手元を見つめている。


いつも私を優しく撫でてくれる手は組まれていて、その長い指先には薄いブルーのネイル施されているのがチラリと見えた。


なんでも現在撮影中の映画の役づくりの一環らしい。


更には空港に来た時の格好も撮影用らしく、撮影を抜け出してきたことは丸わかりで。


空港を出て晴斗の家に着いた途端晴斗はマネージャーさんに連行されていった。


…結果、この時間と相成った。



「…話したくないなら、話さなくてもいいけど?」



いつまで経っても動く様子のない彼。


仕方ない。


私は晴斗の組まれた手を解いてそれぞれの手を握る。



「いや、話さなきゃ、いけないんだけど、さ……」



「うーん。」



弱々しく握り返した彼は私と目を合わせて苦笑したが、私は首を傾げてみせた。



「私は別に、話さなきゃいけないとは思わないけど。」



確かに聞きたいことは沢山ある。


週刊誌のこととか、今日空港に来た理由とか。


この3年間の関係だって疑問はある。


だけど。



「だってね、3年も付き合いがあるのに私達一度もまともに話したことないでしょう?
なのにいきなりこうして今までのことを全て話し合いましょうっていうのは無理があると思わない?」



「うん、確かに…まあ。」



「だから今じゃなくてもいいじゃない。」



あっけらかん、と答えてみせる私。

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