今日は、その白い背中に爪をたてる
「仕事が忙しいの、終わるの何時になるか分からないのに約束なんて出来ない。」



晴斗は比較的賢い部類の男だから、どういう意味かなんて野暮なことは聞かずに引き下がるだろうと思っていた。


これで会わずに済むって、月に一度以上は会いたくないという私の傲慢なワガママがとおるって。



『じゃあ待ってる。』



「……え?」



しかし予想の斜め上を行く発言が右耳から流れてきて素で驚いた。


今日の晴斗、おかしくない?


オフの話だって今の発言だって、私聞いたことないんだけど。


冷静でいようと決めていたのに激しく動揺した私はな、ななななんでよとどもりまくった。



「な、何時に終わるか分からないって言ったじゃない。
行かない…行かないからねっ!!
待ってたって無駄なんだからっ!!」



そう一気にまくしたててじゃあねと一方的に電話をきる。


晶!?と焦る声が聞こえたのはきっと気のせいだ。



「はあ…はあ…はあ…」



「…何慌ててんの。」



いつの間にか立ち上がってしまっていた私を皐月が長い脚をスラリと組みながら呆れ顔で見上げる。


荒い息を整えることもしないで私は突っ立って言った。



「…な、なんか、最近の、晴斗、変なんだよっ……」



「……どう変なのよ。」



どうって。


少し返事に困ってしまった。


ええと、だからその。



「私って…晴斗の、セフレでしょ。」



そうだ、私はただのセフレ。


身体だけの繋がりをもつ間柄で。



「……それから、」



それから、と続けようとする私に皐月は何も言わない。


連絡先知ってるけど私からは絶対電話なんてかけなくて晴斗の気まぐれだし。


そうなると必然的に私と晴斗が会うのは晴斗の都合のいい時だけだし。
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