俺様常務とシンデレラ
ピシリと固まった私の様子を見て、常務が手短に状況を説明してくれた。
アジュールでのウエディングプランは、あの厳かで上品な会場に見合った、格式高いものにする予定なのだ。
端々まで凝った演出で、幸せのうちに結ばれるカップルが、日常からは切り離されたような世界でその日の主役となれるように。
もちろんそのウエディングの模擬挙式なわけだから、オープニングセレモニーでも、コンセプトに合ったものを計画していた。
常務は女の子の夢や憧れを体現したような結婚式を、なるべく多くのカップルに届けたくて、プランの料金を下げることを提案したのだ。
しかしそのことを理久さんに伝えたのは常務ではなく、東堂会長だった。
そのせいで食い違いが生じ、理久さんは肝心なその演出までもカジュアルなものへと尽く変更させてしまった。
それはもうこれまでに常務やセレモニーの準備に関わった人たちが築いてきたコンセプトからは離れたものだったのに、私がそれを受け入れてしてしまったものだから、一度了解したことを覆せば理久さんが怒るのも当然だった。
「きみはなぜ、大和の考えを把握していなかったんだ? 秘書というのはボスの考えを誰よりも理解し、知ろうと努力するものだ。相手もそういうものだと思っている」
私を見据えてゆっくりと語りかける会長は、決して怒っているわけではないだろう。
だけどその口調は重く、私の頭を支配してヒシヒシとのしかかってくる。
香乃子さんが言ってたのは、こういうことだったんだ……。
私はあの打ち合わせの日に、香乃子さんが何気なくかけてくれた言葉を思い出して、その意味をやっと本当に理解した。