俺様常務とシンデレラ
草十郎さんと少し話をして、会長と夏目さんはまた人の波間に溶け込んでいく。
「絵未!」
その後ろ姿をぼんやりと見つめていると、突然名前を呼ばれてガシッと右腕を掴まれた。
見上げると、ちょっと焦った顔をした常務がいる。
「お前頼むから、ふらふらと目の届かないところに行く癖やめてくれよ。危なっかしいやつだな」
「うっ、ご、ごめんなさい」
子どもをしつけるような言い方だけど、私にも心当たりがたくさんあるので言い返せない。
私って、いつまで経ってもへっぽこ秘書を卒業できないんだろうか。
「ふむ、大和さん、なんだか少し雰囲気が変わりましたね」
ぱちぱちと瞬きをした草十郎さんが、私を叱る常務を見て小さく呟く。
私は思わず息を飲んだけれど、草十郎さんはまったく気にしない様子でまた陽気に微笑んだ。
「絵未さんというお名前なんですね。てっきりサクラが下の名前なのかと思っていましたよ」
「あ、佐倉絵未といいます、よろしくお願いします!」
それから、ガバッと頭を下げる私とその隣に立つ常務を見て、草十郎さんがなにかを思い付いたようにぽんっと手を叩いた。
「せっかく中世の舞踏会へも出席できそうなほど素敵なおふたりですから、ワルツを踊りましょう!」
「へ?」
ぽかーんと口を開ける私をよそに、「立派な演奏隊もいることですし」と、草十郎さんがウインクをする。