俺様常務とシンデレラ
母が怒って追いかけて来るんじゃないかと思って、後ろを気にしながら外に出た私は、夢に出てきたあの黒いベストの男の子の背中にぶつかって転んでしまった。
ちょうど常務が30歳になったあの夜に、私が彼の背中にぶつかって転んだように。
男の子は私に手を差し伸べた。
「お前、大丈夫か? ひとりで抜け出してきたのか?」
「うん! つまんないから、お城から逃げて来たの」
「バカだなあ、お前。これはお城じゃなくて教会だぞ」
そう言って笑った男の子が私を立たせると、教会の中からワルツが漏れ聞こえてくる。
私たちはワルツに合わせて、くるくると踊った。
あれは夢じゃなかったんだ。
今ならわかる。
柔らかな月明かりの中、私を見つめる漆黒の瞳の男の子は、10歳の頃の常務だ。
ワルツが終わると、側に立って幼い常務を見守っていた男の人--たぶん若い頃の夏目さん--が、常務に細長い箱を差し出す。
常務はその箱を受け取ると、中から華奢なピンクゴールドのアンクレットを取り出した。
「これ、さっきお母さんがくれたんだ。運命の人と永遠に結ばれますようにって魔法が掛けてあるらしい。特注だから、この世にひとつしかないんだって」
そう言った小さな常務は、リボンのモチーフがついたアンクレットを私に差し出す。