俺様常務とシンデレラ
すぐ隣にボスが立っているっていうのに、ふわふわと浮気する私の心。
それを繋ぎ止めるように、常務が私の右腕をガシッとつかんで引き寄せた。
「わっ!」
「東堂会長、僕はついこの間、やっと佐倉を見つけて来ることができたんです。どうか取り上げないでください」
常務が心底困って懇願するようにそう言うと、東堂会長は目を糸のように細めて上機嫌に声を上げて笑った。
常務が立つ右側の耳が、ぽわーんと熱をもって、その熱がじわじわと身体中に広がっていく。
もうっ!
常務ってば、王子様モードだとスラスラと調子いいことが言えちゃうんだから!
私はかあーっと赤くなった頬を隠すようにペコリと頭を下げて、東堂会長がいなくなるのを見送った。
ドアが完全に閉まる音がしても顔を上げられない私の頭の上に、常務が呆れたように声を落とす。
「まったく、ついこの前までクビにするなって言ってたくせに。俺の側にいながらふらふらするなよ」
「じょ、常務だって、本気でクビにするつもりで私に本性見せたくせに……」
取り上げないで、だなんて。
さっきの言葉は、本心から出たものじゃないってわかってる。
それでもドキドキと音を立てる心臓を誤魔化すように、私はモゴモゴと文句を言い続けた。