俺様常務とシンデレラ

「お、おいしい……」


その"シンデレラ"はひとくち含んだ瞬間に甘い味が広がって、緊張と場違いな気まずさに固まりかけた私の頬を、自然と緩ませる。


「"シンデレラ"はオレンジとレモンとパインのジュースをシェークして作ってるんだ」

「へえ……」


なんだ、ジュースばっかりじゃん。

本当は甘党の常務のほうが、この"シンデレラ"を飲みたいんだろうなあ。


そう思った私は、ただ単に常務にもこの甘さを分けてあげたいと思った。


「常務もひとくち飲んでみますか?」


見上げた先の常務は一瞬目を丸くして驚いた顔をすると、ほんの少しだけ苦い顔になった。

だけどその表情はすぐに引っ込めて、私の腰に回していた腕を離すとサッと距離をあける。


「いや、それはきみのために頼んだものだから。今日のきみはまさにシンデレラだろ?」


あれ、さっき一瞬だけ素の常務になったような気がしたのに。

そう言った常務はもう完璧にキラキラ・オーラの王子様で、私はなぜかちょっとだけ惜しい気持ちになった。



それから私は常務にエスコートされながら、いろいろな人にペコペコと頭を下げた。

ときどきニュースで見るような人にも会ったし、私の知らない人もいたけれど、たぶんみんなど偉い人だもん。
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