俺様常務とシンデレラ
途中で夏目さんが常務を探しに来て、常務は会場のどこかにいる葦原会長に呼ばれてしばらく側を離れた。
代わりに私の側に残ってくれたのは夏目さん。
堀の深い目元と、その奥で強く光る焦げ茶色の瞳は、相変わらず印象的で刑事ドラマにでも出てきそう。
だけどその瞳が常務に向けられるときは、うんと柔らかくなる。
常務が10歳の頃から知ってるわけだし、お兄さんのような気持ちなのかも。
夏目さんとは、もちろん社内でも顔を合わせるのだけど、落ち着いて話をするのはあの日の猫丸以来だった。
「どうですか? 彼の秘書にはだいぶ慣れましたか? 歓迎会のひとつもできなくて申し訳ない」
「え! いえいえ、いいんですよ、そんな……。みなさん、お忙しいですもん」
あそこで働いていれば、秘書室のみんながどれだけ忙しいかなんてすぐにわかる。
それでもみんな、右も左も分からない私を、いろいろと気遣ってくれるんだ。
「……夏目さんは、どうして私を常務の秘書にしたんですか?」
いつだったか常務がその話をしてから、ずっと気になっていたこと。
夏目さんが私を常務の秘書に選んだ理由が知りたくて、でも聞くのはなんとなく怖いような気もして、恐る恐る聞いてみた。
「うーん、そうですねえ……」
夏目さんは眉を寄せて困ったように唸り、着飾った人々で溢れかえる会場をぐるりと見渡した。