俺様常務とシンデレラ
「私が会長の第二秘書として秘書室に配属された頃、常務はまだ10歳でした。こういったパーティーがあれば、彼のお守をするのは私の役目でしてね」
夏目さんは賑わう会場の中に、幼い頃の常務を探すかのように目を細めた。
「私が思うには、彼は裏表が激しいというより、心を許せる人間が極端に少ないんですよ。葦原家のひとり息子としての責任も感じていたでしょうし、会長の奥様が亡くなられてからは一層……」
「え……?」
常務のお母様が亡くなっている……?
はじめて聞く話に私が目を丸くしてピシッと固まると、夏目さんは私を見下ろして、気を取り直したように厳しい表情を崩した。
「常務のお母上である満咲(みさき)さんが病で亡くなられたのは、常務が大学生の頃ですから、もう10年ほど前のことです。それ以来彼は、あの小難しい性格に磨きをかけたわけですよ」
「はあ……」
小難しい、だろうか。あの人。
確かに裏表のギャップはかなり激しいし、はじめて知ったときは驚いたけど、それを難しいと思ったことはなかった。
だって子どもっぽいじゃん、本当の常務って。
意地悪で、甘党で、私のことをいじめて楽しんでるかと思えば、突然キスなんてして振り回す。