俺様常務とシンデレラ
夏目さんの言葉につい首を傾げた私を見て、彼は何度か瞬きを繰り返してから、とっても嬉しそうに目を細めて笑った。
「……なるほど、そうですか。彼の性格をそこまであっさり受け入れるなら、私の見立ても間違っていなかったということですね」
「え?」
それから夏目さんはそっと顔を近付けて、内緒話をするように、指先でちょいちょいと私を呼び寄せる。
それにつられてふらふらと耳を寄せると、夏目さんは何か重大なヒントを与えるように、随分と低く声を落として言った。
「もちろん、あなたを選んだ理由には、あの常務と上手く付き合っていけそうだと思ったこともひとつとしてあります。しかし、私としては、もっと"くだらない理由"に賭けてみたんですよ」
「……くだらない理由?」
私はその言葉に眉をひそめた。
なんかそれ、聞いたことある。
ああ、そうだ。
確か常務も、『夏目はもっとくだらない理由でお前を秘書として連れて来たのかと思った』って言ってた。
ふたりの言う"くだらない理由"は、同じことなの……?
「あの、それって……」
「ごめん佐倉さん、お待たせ。疲れただろ? ちょっと休憩しようか」
私がもっと詳しくその理由を追求しようと口を開いたとき。
後ろから力強い腕がウエストに回され、引き寄せられて、すぐ近くにあった夏目さんの顔がグンッと離れていった。