俺様常務とシンデレラ

あまりにも唐突なその質問に、私ができた反応はぱちぱちと3回瞬きをすることだけだった。

隣に立つ常務も、きょとんとしているのが雰囲気でわかる。


だけど小鞠ちゃんは至って真剣な様子で、探るような眼差しでただ常務のことをジッと見ていた。



「好きだよ」



沈黙の上に優しく舞い降りた、低くとろけるような常務の声。


肌を突き破りそうなほどに心臓が飛び上がり、私はギョッとして常務の横顔を見た。

見上げる先の横顔は、嫌味なほど整った王子様スマイルで、その後ろに薔薇が咲き乱れているようにすら見える。

それなのに、その分厚い鉄壁のガードを誇る笑顔の仮面に、一瞬寒気を感じてぶるりと身震いをした。



「彼女はすごく可愛らしいし、秘書として健気にがんばってくれるし、とてもいい秘書と巡り会えたと思ってるよ。東堂会長や夏目のように、俺を支えてくれる人はみんな好きだ。もちろん、小鞠のことも」



で、ででで、ですよね!

好きってそういう意味ですよね!

人間としてみたいな!


私はドタバタと暴れまわる心臓を大人しくさせるために、意味もなく頷きながら自分にそう言い聞かせ、いつのまにか止まっていた呼吸を再開させる。


それにしたって、常務の言ってることはかなりお世辞だ。

私のことを『へっぽこ秘書』だなんて言うこの人が、『いい秘書に巡り会えた』なんて思ってるわけがない。

そりゃあ、完璧外面モードにもなるでしょうね!
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