俺様常務とシンデレラ
常務は建前でそう言ってるだけなのに、私はひとりでバカみたいあたふたしてしまう。
小鞠ちゃんもまったく、いきなり何を言い出すのかと思ったよ、うん。
きっと小鞠ちゃんは、私なんかよりもずっと、女の人にモテモテの常務を知ってるだろうに。
いきなり現れた平凡以下のへっぽこ秘書を、この人が好きになるなんて、あるわけないじゃん。
そうそう、常務は私のことを『気に入った』なんて言ってたけど、『好き』だなんて言われてない。
キスしたのだって、お気に入りのオモチャを手に入れたから、ちょっと遊んでみた程度のことだ。
飽きればすぐに忘れる。
ジェットコースターのように思考をあちこちへ飛ばす私をよそに、王子様スマイル全開の常務と真剣な表情の小鞠ちゃんは、互いの黒い瞳で黙ってジッと視線だけを交えていた。
「……ふんっ、嘘ばっかり」
最初にその沈黙を破ったのは、小鞠ちゃんの不満そうな声。
拗ねたように常務を睨んで、唇を尖らせている。
あ、そうなんです。
よくわかったね、それ嘘だよ。
この人、私のこと『へっぽこ秘書』とか言うんだよ。
私はブンブンと頷いて肯定したい気分だったけど、常務がせっかく繕ってくれたので控えておいた。