俺様常務とシンデレラ
「まあ別に、私はそれならそれでいいんだけど」
小鞠ちゃんは不機嫌そうに言って、私たちにくるりと背を向ける。
「小鞠! ひとりで大丈夫か? 変な男に付いて行くなよ」
常務が心配性な兄のように、その華奢な背中に声をかけると、小鞠ちゃんは歩きながら肩越しに半分だけ振り返って手を振った。
「大丈夫、今日はお兄ちゃんがいるから。あの人の過保護っぷりは知ってるでしょ? 逃げて来るの大変だったんだから、会っても私のこと教えないでね」
黒猫のようにしなやかで上品な後ろ姿は、するりするりと人の波を掻き分け、賑わうパーティー会場の中ですぐに見えなくなった。
私は小鞠ちゃんの姿が見えなくなった辺りを、呆気にとられながらしばらく眺めていた。
すごい子だった。
はじめて本当の美少女を見た、という気がする。
強気で、ちょっとツンとしてて、びっくりするほど綺麗な女の子。
それなのにどこか危なっかしく儚げな雰囲気があって、抗えない魅力がある。
今日のパーティーで会った女の人の中でも、特別印象的な子だった。
常務の側には、ずっとああいう女性がたくさんいたんだ。
「行くか」
小さな声で常務が私を促すまで、私は瞼の裏に焼き付いた小鞠ちゃんの残像に囚われ、なぜだか締め付けられる胸を抱えて煌びやかな会場をぼーっと見ていた。