俺様常務とシンデレラ
* * *
常務が私を連れて来たのは、舞踏ホールからは少し離れた場所にある、立派な英国式の庭園だった。
おとぎ話に出てくるお庭のように、生い茂る木々や、水の流れる音が聞こえてくる。
小さな橋を渡ると、花々に覆われたアーチが現れ、その奥には噴水と白い八角形の小さなガゼボがあった。
風に吹かれて囁く木々が丸く囲むその空間には、柔らかな月明かりが降り注ぐ。
私は噴水の前に佇み、星空を映して輝く水面を見ていた。
水が星を打つたびに、波を作って夜空を揺らしていた。
「お前もこっちへ来いよ」
白いガゼボの中のベンチに座り、くつろいだ様子の常務にそう声をかけられた。
ふーんだ。
自分だけリラックスしちゃってさ。
私はなんとなく腹立たしい気分になりながらも、素直にその声に従う。
変なの。
本当の常務の声で紡がれる言葉は全て、魔力を持った呪文みたいだ。
「あ? なに怒ってんだよ。しかも遠いだろ」
頬を膨らませながらこれ見よがしに距離をあけて座った私に、常務が不満そうな視線を寄越す。
そこで私は、以前と同じ既視感に囚われた。
月明かりの中で私を映す黒い瞳を、前にも見たことがあるような気がする。