俺様常務とシンデレラ
「ほら」
「わっ!」
漆黒の瞳に油断してしまった私は、常務に強引に手を引かれ、勢い余ってその胸の中にダイブしてしまった。
「ほーう、大胆だな」
「こ、ここ、これは常務が……!」
常務は片方の眉を器用に上げて、意地悪く私を見下ろす。
私は自分を囲う腕からもぞもぞと逃れて、熱くなった頬を隠しながら、大人しくその隣に腰を下ろした。
全身が心臓になってしまったかのように、身体中がドキドキと脈を打つ。
受け止められ、一瞬抱きしめられた身体に、冷めない熱を宿されたみたい。
「お前がムスッとした顔してるからだろ。可愛くなくなるからやめろ」
「すみませんね、可愛くない秘書で!」
「くくく、そうは言ってない」
常務は楽しそうに目を細め、見てわかるほどに肩の力を抜いている。
さっきまではほとんど違和感もなかったのに、やっぱりこちらの常務のほうが本当の彼なんだという気がしてくるから不思議だ。
みんなの前でもこの姿でいれば良いのにと思う反面、少しだけもったいないような気もする。
「で、でも、小幡社長は私のこと可愛らしいって言ってくれました! ちゃんと聞いてました?」
「はあ? お前こそちゃんと聞いてんのか。俺だって何回も言ってるだろ」
ムキになる私に、常務は信じられないと言いたそうな呆れた視線を向けてくる。