俺様常務とシンデレラ
「だって! 常務はいろんな女性に『お綺麗ですね』とか、『お美しいです』とか、そんなことばっかり!」
さっきから胸の中でモヤモヤと膨らみ続ける気持ちを吐き出すように、ついそう言ってしまった。
声に出したら、目を背けていた感情がジワジワと迫ってきて、なんだか泣きたくなってしまう。
常務は一瞬きょとんと目を丸めたけど、すぐにかまぼこのような形にして、ニンマリと笑って私を見つめる。
むきー!
いやらしい顔!
「なんだよ、ただのヤキモチか」
「違いますっ!」
ほらね!
もしも今、常務がキラキラ王子モードなら、『きみも綺麗だよ』とか『佐倉さんは十分可愛いよ』とか、そんな歯の浮くようなセリフを言ったはずだ。
本当の常務の意地悪っぷりと言ったら、イタズラ好きの少年みたい。
「そりゃあ、美人は美人だろ。小鞠や他の女性が綺麗なのは客観的事実だ」
常務の淡々とした声が、私の胸に突き刺さる。
当然のことを言っているだけなのに、涙を堪えられなくなりそうで、私はふいっと顔を背けた。
「だけど……」
常務がふたりの間の僅かな距離を詰め、私の両頬を手で挟んで無理やり顔の向きを戻して目を合わせる。
挟まれて少し突き出たタコのような唇を見て、常務がぷぷぷと笑う。