精霊の謳姫



「…どういう、つもり…?」



半ば睨むように彼を見据えれば、



「ちょっとした、お仕置きですよ。
貴女が今押さえている箇所に、呪印を施しておきました。」



悪びれた様子は微塵もなく、彼はふふっと微笑ってそう言った。


次第に引いていく痛みとは裏腹に、サリヴァンは嫌な予感を憶えて怪訝な表情をした。


…彼が微笑っている。


常に掴み所がない、笑っているのかいないのか曖昧な顔をしてはいるのだが、
時折愉しそうな表情を見せる時がある。


それは決まって、
___対象を嬲り弄ぶ時であった。



「その呪印は謂わば制限時間です。
貴女が姫君をお連れするまでの、ね。

”期日”が近づくにつれて、呪印が貴女を蝕むことでしょう。
それまでにお連れ出来なければ…ふふっ。
まぁ、分かりますね?」



刃物のような美しい顔を愉しげに歪ませて、彼は淡々と語る。

サリヴァンは肩口を押さえながら無言でリドルを睨みつけていたが、
彼はそれに嘲笑で応えるだけだった。



とってつけたような別れの挨拶を口にして優雅に去って行く男の後ろ姿を見送り、
彼女はようやく肩口から手を離すと、着崩れたローブを羽織り直した。


深く息を吐き出す。
感情を、表情を消し、踵を返して歩き出す。


急ぎ、ここを出なければならない。

自らが仕える、主君が為に___。



横縞の長い渡り廊下に静寂が戻る。
時折聞こえるのは遠い遠い、微かな小鳥のさえずりのみ。

早朝の穏やかな空気はどこか寂しく、虚しいほどに閑散としていた…。


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