エターナル・フロンティア~前編~

 寝息をたてながら眠るその表情は、不幸を背負っているようには思えないほど安らかだった。本当の不幸とは――そのことを一般の人間に聞いても、適切な答えは得られない。何故なら「自分が一番不幸」と、言う。

 だからこそ、本当に目を向けなければいけない部分を見ようとしない。そのような人物の答えに、どのような意味があるというのか。本当に辛く苦しい人物は、声にならない声で叫ぶ。そしてその声は届くことはなく、偽りで固めた者達にそれを消されてしまうからだ。

 私は辛くても、明るく生きているのよ。

 馬鹿馬鹿しい。自身を嘘で塗り固め、他人の同情を得ようと必死になっている姿ほど惨めなものはない。第一線から離れ遠回しで物事を見られるようになったタツキであったが、決して彼等に同情をしようとは思わない。何故なら「彼等は、本当の地獄を知らない」ということらしい。

 地獄とは何か。

 どういう世界を表すのか。

 それは、体験した者しか言葉に表すことができない。

 それだけあの世界は異質な世界であり、明確に言葉に表すことはできない。だから、多くの者は不幸ではない。それでもタツキの言葉が真実だとわかる日は遠く、人々が己自身を可愛いと思っているからだ。

 ひとつの枠に固定し、それからはみ出るのが恐ろしい。だからこそ、偽りを続ける。さて、真実を知った時の反応は――眠っていたはずのソラが目を開き近くに置いてあった枕を抱きしめると、ポツリと呟く。

「……消えてしまえ」

 その言葉の意味は、力を持つ者にしかわからない。それがタツキであれ、深い部分まで掴み取ることはできないだろう。枕に顔を埋めると、雨の音を聞きながら新しい一日が訪れるのを待つ。

 今は、それにかできない――


◇◆◇◆◇◆


 昨日とは異なり、イリアはアカデミーに登校していた。主な理由はユアンとの約束を果たす為で、いわゆる「個人的な理由」というやつであった。そして、卒論を急いで仕上げないといけない。

 今、彼女は図書室に向かっていた。彼女が通うアカデミーは、全校生徒五百人以上という巨大な学校であり、将来科学者を目指す生徒が大勢入学してくるので備えられている機器は最新鋭の物ばかりであった。よって、一般の研究所以上の規模を誇っているといって過言ではない。
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