エターナル・フロンティア~前編~
「……どうして」
無意識に発した言葉は、母親が口癖のように言っていた言葉。何故、急に思い出したのか、ソラは視線を上げ遠くを見詰める。そして、思い出の中の家族の記憶を蘇らせた。ふと、涙が溢れる。あの時は今とは違い幸せであったが、不幸は突如としてその身に降り掛かる。
今の生活は、不幸の影響によるものだろう。そのことに、多少ながらも差を感じてしまう。多くの者達は幸福に生き、自分はこのような生活を送っている。同じように生きているというのに、どうして違うのか。比較すること自体愚かな行為と思われるが、差がありすぎる。
ソラは、両親がいない。しかし、イリアは両親が健在だ。いや、それだけではない。生き方そのものに差がある。決定的なもの――それが原因というのなら、他者は彼等を嘲笑う。
ソラは、タツキが言っていた言葉を思い出す。彼等は自分達の幸福を自慢し、下を生み出す。自分達より下がいるということに安心感を得て、その地位を万全なものにしようと無駄に努力を行う。だからソラから見れば一部の人間を除き、全員が敵のように思えてしまう。
壁を支えにして、立ち上がる。先程の吐き気は少しずつ良くなってきているが、油断はできない。再び瓶に手を伸ばすと、空の胃に錠剤と水を流し込む。悲しいことに、これがないと普通の生活が送れない。
このような生活が、いつまで続くのか。その問いの答えを提供してくれる人物は、今のところいない。その意味を、タツキさえわからないという。なら、この苦しみから解放されるには一体いつか。だが、それを望むことはできない。少ない人数であるが、涙を流す人物がいるからだ。
ソラは寝室に向かうとベッドの上で横になり、息を吐き出す。体内から、嫌なことを外に出すような形で。すると薬を嗅がされたかのように、急に瞼が重くなってくる。どうやら、やっと眠れるらしい。
叩き付ける雨音は、更に大きな音へ変化していく。ソラはその音に不満を持つことはなく、寧ろ嬉しかった。静かな空間で、眠る必要がないからだ。静寂が包む夜は怖い。その夜が明けた後、必ず不幸がやってくるからだ。そしてその朝は、もっと恐ろしいことが待っている。
そう、あの白さを思い出してしまう。
「オレにとって幸福なのか、それとも不幸なのか……」
何気なくタツキと同じ台詞が、口をついた。その台詞の答えは、いまだにハッキリしていない。生きていること自体が不幸と思える今日、その中から微かな幸福が見つかればいいのだが、まだ見つけてはいない。微かな幸福とは――答えを出す前に、意識が闇に消える。