エターナル・フロンティア~前編~
「……ラドック博士」
大勢の群集に囲まれていたのは、何とユアンであった。どのような理由でアカデミーに来ているのかわからないイリアは、呆然と立ち尽くしユアンの姿を眺めるかしない。クラスメイト達はそのようなイリアを余所に、群集に混じりユアンニ向かい黄色い歓声を上げている。
ユアンの人気は、凄まじい。改めてこのような光景を目の当たりにすると、驚くというより唖然となってしまう。尊敬する博士が目の前に――だが、イリアはその場から動けなかった。
(ど、どうしよう。まだ終わっていないのに)
頼まれごとをしているのに、私用は片付いていない。そのことに恥ずかしさを覚えたイリアは、ユアンに会うことを躊躇ってしまう。心の中では、会って話がしたいと思っている。考えと身体の動きが一致しないことに、多少苛立ちを覚えるもどうすることもできなかった。
(相変わらずの人気)
言葉ではわかっていたが、このような光景を目の当たりにすると改めてユアンの凄さを思い知る。そのような人物に、物事を頼まれた。イリアにとって、卒論以上の重圧が圧し掛かる。
(もし――)
彼がイリアに「あのこと」を大勢の前で話したら、周囲はどのような反応を見せるか。憧れの存在を奪ったと認識され、意地悪される可能性も高い。そう考えると、逆に近付かない方が身の為だ。
以前、ユアンと個人的に話していた生徒が多くの女子生徒から陰口を叩かれたと聞く。それは嫉妬心が関係していたのだろう、同性同士の争いほど恐ろしいものはない。ユアンに話したり話し掛けられたりしたら、イリアもその苛められた生徒と同じことをされてしまう。
そう思った瞬間、身体が動く。イリアは一歩一歩遠のくと、騒ぎが治まるのを遠くで待つことにした。同時に、研究所でのやり取りを思い出し恐怖する。もし、誰かがこのことを知っていたなら――
嫉妬は怒りに変わり、イリアに矛先を向けるだろう。ユアンという人物はそれだけ人気があり、女性の感情を面白いように操作する。それに時として感情は暴力へと変化し、相手に降りかかる。
(やっぱり、断るべきだったのかな)
ユアンに認めてほしいという思いと、虐められたくないという考えが混同する。あの時は浮かれていたのでそこまで考えが回らなかったが、冷静に考えてみると敵を多く作る要因となってしまう。ユアンとの繋がりを持つにはかなりの覚悟が必要となり、イリアはまだ持ち合わせていない。