エターナル・フロンティア~前編~
「な、何?」
「汚い」
「手が回らないのよ」
「そうか。まあ、仕方がない。それじゃあ、買い物に行ってくる」
「本当?」
「これで、作れというのか」
「……そうね」
アルコール類が目立つ冷蔵庫に、タツキは動揺を隠し切れずにいた。微かに震える声音が、それを物語っている。やはり、女性として生まれたのだから料理が作れるべきであろう。
男のクリスにしてみたら、女性に家庭的な一面を求めてしまう。だが、タツキにそれを求めてはいけない。料理を作るより酒盛りを楽しんでいる方が好きで、完全に性別を間違えて生まれて来た。
「一時間かな」
「その半分」
「無理だ。調味料くらいは使えると思っていたが、これでは使うことができない。これくらい、きちんと保存できないのか。調味料の保存は、難しいものじゃない。それだというのに……」
プラスチック容器の蓋を開くとひっくり返して見せるが、中身がこぼれることはない。どうやら石のように固まってしまったのか、この調味料の正体は砂糖で、完全に原型を留めていない。
「それ、半年前に買ったのよ」
「半年って……普通は、使いきるぞ」
「アタシは、使い切れないのよ」
「褒めていない。さて、行ってくる」
蓋を閉めると、タツキの目の前に置く。態度で示すのは「これを綺麗に洗っておけ」であったが、タツキは気付いていない。その証拠に、そのまま冷蔵庫の中に仕舞ってしまう。自分はコーヒーを飲みながらクリスが帰ってくるのを待つらしく、買い物は一切しないという。
タツキにしてみれば、クリスはこのような存在。定期的に訪れ料理を作ってくれればいいと思っているらしいが、クリスは馬鹿ではない。そのことは見抜いているので、滅多に訪れはしない。
だが、タツキのことは心配になってしまう。気にしないことが一番の方法であったが、そのようにはいかない。何だかんだでクリスはタツキに優しく、今回は彼女の代わりに食材の買出しに行く。本当に相手を嫌っているのならこのようなことはせず、寧ろ軽蔑している。