エターナル・フロンティア~前編~
「やれ!」
刹那、命令が下る。しかし硝子の向こう側にいる者達は先程のやり取りを聞いていたので躊躇いを見せていたが、男の一括によりそのような甘い考えを持つことを否定されてしまう。この研究室での男の命令は、絶対的であった。よって、逆らうということは許されない。
この研究に携わっている時点で、悪魔に魂を売っているといい。今更、戸惑うこと自体あり得ないのだが、男以外の者達は手が震えていた。いままで何度も同じことを行いその時は感情の変化を感じることはなかったのだが、今は女の言葉が枷となって働き動きを制する。
だが、止めることはできない。
二本目の針が、少年の首筋に突き刺さろうとした瞬間――
「やめて。打っては駄目!」
絹を裂いたような女の悲鳴が、室内に響く。そして主任の胸倉を掴むと「アナタは狂っている」と、叫ぶ。男は顔を歪ませながら女を振り払おうとしたが、その前に周囲にいた者達に取り押さえられ後方に連れて行かれてしまう。そして羽交い絞めにされ、拘束されてまった。
そして、縛られている時――
「副主任、アナタは手を汚してはいけません。アナタがいなくなっては、彼等はどうなります」
囁きに等しい声音であったが、そのような言葉が女の耳に届く。誰の言葉かはわからなかったが、この研究室の全員は副主任と呼ばれた女と同じ意見を持っていたことが判明する。
彼等の意思に従うように女は暴れるのを止め、静かにすることにした。心なしか、拘束が緩い。これなら簡単に逃げ出せそうであったが、今は動くことをしない。急に大人しくなったことに男は嘆息しつつ胸元を直すと、女を睨み付けながら「余計なことを」と、言い放つ。
「今更、何を言う。貴様とて、我々と実験を行ってきた一人だ。所詮、同じ穴の狢だ。他の者達も聞け。無益な感情は、持たぬことだ。持てばこの女のようになり、実験の妨げになる」
男は踵を返し、再度命令を下す。主任の言葉に注射器を持つ者は震える手を押さえながら、どうにでもなれという考えの中で少年の首筋に針を突き出す。その瞬間、女の顔が歪んだ。
止められなかったという後悔の念が女の身体を支配し、絶望に似た感情が湧き出してくる。そして当の少年は、薬を打たれても特に変化は見られない。そのことに男は悔しがり苦虫を噛み潰したような表情を見せていると、一人の科学者がディスプレーを見ながら不可思議な声を漏らした。