エターナル・フロンティア~前編~

 誰一人として立ち入った者もおらず、日頃は鍵がかかっている部屋だった。其処に、ソラをその部屋隠しておけばいい。今身動きひとつしないので、隠すには都合がいい部屋でもあった。

 事は、早い方がいい。

 ユアンはソラを軽々と担ぎ上げると、カードキーを取り出し部屋のロックを外す。そして立ち入ったと同時に、明かりをつけた。

 その瞬間、何かが光り輝く。

 輝いた物体はひとつではなく複数。物体の正体は鏡ではなく、分厚い瓶であった。それが大量に、並んでいた。

 瓶は全て、透明な液体で満たされている。

 中に浮かぶのは――

 人間の形を形成している物体。

 それに、不恰好な肉の塊。

 全て、小さい。

 勿論、生きている肉の塊はない。

 だが、部屋中に不穏な気配が漂っている。

 気の所為といってしまえば、それまでだろう。しかし不穏な気配は、確かに存在していた。

 瓶を満たしている液体は、ホルマリン。

 そう、これらの肉の塊はユアンの実験道具だ。

 見慣れた光景なのだろう、無表情のまま部屋の中に入っていく。そして無造作に置かれている椅子に、ソラを座らせた。

 薬が効いているので、何とも扱いやすい。この状態であったら、簡単に実験の対象とできる。

 だが、ユアンは手を出さない。

 約束は、絶対に守る。

 それが、他の科学者との違い。

 ユアンは暫く、ソラに視線を向けている。視線の裏側に隠されている色は普段の彼とは違い、普通の人間という言葉が似合う。父親が息子を見ている姿か、それとも兄が弟を心配している姿か。

 どちらにせよ、愛情が含まれている。

 その時、隣の部屋に気配が生まれる。どうやら、携帯電話の先で話していた人物が訪れたようだ。

 立ち入る時、ノックがない。

 常識がない失礼な相手に、ユアンは顔を顰めた。しかし相手は、自身より立場が上の人物。
< 358 / 580 >

この作品をシェア

pagetop