エターナル・フロンティア~前編~

 現在の状況は、複雑に絡み合っている。その中で生きていくには、長いものに巻かれた方がいい。ユアンが、相手に媚を売るのは珍しい。しかし、今の状況では最善の方法を選ぶ。

「助かる」

「……いえ」

 物分りが良くなったユアンに、男の表情が一変する。そして思いが伝わったことを、全身で喜ぶ。一方のユアンは、ほくそえむ。彼等はユアンより高い地位に就いているのだが、弁論に長けているわけではない。その為、簡単に騙されてしまう。勿論、相手は気付いていない。

 弁論と共に、表情を作り変えるのも上手い。流石、曲者揃いの世界で生きているだけあった。

 偽りを演じ、個を隠す。

 それが、ユアンの特徴。

「あっ! 分野が違いますので、いいデータは期待しないでください。努力は、いたしますので」

「急かすのが嫌いとは知っている。では、いい返事を聞けたので、私は行く。だが、期待はしている」

「待って下さい」

 ソファーから男が腰を上げた瞬間、ユアンが動きを制する。予想外の厳しい言葉に男の身体が震え、反射的に視線を相手に向ける。何か悪いことを言われると怯えているのか、落ち着きがない。

「コーヒー飲んで下さい」

「あ、ああ」

 慌ててカップを手に取ると、一気に飲み干す。ミルクと砂糖を入れていないので、相当苦い。何とか液体を喉に流し込むが、顔が歪む。ユアンはイリアにした悪戯を、男にも行ったのだ。

 しかし、量が違う。

 イリアの時の倍の量を使用した。

 どす黒い液体の苦い水。

 それを一気飲みしたのだから、身体に悪い。男は嘔吐感を必死に耐えつつ、部屋から出て行く。

 開きっぱなしの扉。

 ユアンは、悪魔の笑みを浮かべた。

「……情けない」

 呟いたと同時に、扉を閉める。

 そして踵を返し、隣の部屋に向かった。
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