エターナル・フロンティア~前編~

 しかし鼻腔を刺激する臭いが、現実を思い出させる。今まで気付かなかったが、アルコールの臭いが漂う。

「……ソラ」

「何?」

「怪我したの?」

「うん? まあ……」

「仕事?」

「そうだね」

 歯切れの悪い言葉を続ける。

 イリアに、自身の身に起こった出来事を話すわけにはいかない。話した瞬間、イリアは大粒の涙を流す。アルコールが漂う理由は、科学者達の欲望の結果。全身を切り刻み、血を大量に流す。

 それを隠す為にアルコールと薬を使い、傷の手当てをする。勿論、相手を殺さない為の行為だ。彼等に、優しさを持ち合わせていない。要は、実験材料を失いたくないから行っている。

 科学者曰く「たまたま、人間の形を形成している」らしい。言葉を発し呼吸をしようが、材料は材料。血は肉の中に流れている赤い液体で、特別な意味を有していない。だが、止血は行う。

 全ての液体が肉の中から流れ出た場合、材料が腐食現象を起こし利用価値が著しく低下すると知っているからだ。ソラはイリアの頭を撫でつつ、自身が置かれている状況を考えていく。同時に、思いを口にする。

「無理するな」

「うん」

「側にいるから」

「うん」

「頑張れ」

 ぎこちないながらも、顔の筋肉を動かす。しかし位置的に、イリアに表情は見えない。それは、ある意味で幸いであった。次にソラは、心の中に詰まっていたことを聞いていたからだ。

「質問いいか」

「何?」

「どうして、能力の研究を――」

「それだけど……」

 ソラの言葉を遮るかのように、イリアは選択した道を離していく。当初驚く素振りを見せるが、冷静に受け止めていく。選択した理由は、わからなくもない。身近に、力を持つ人物がいるからだ。
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