エターナル・フロンティア~前編~

 何と扱いやすい。

 そして、阿呆だ。

 心の中に、どす黒い感情が溢れる。

 しかし、表情に出すことはしない。

 ただ、相手を夢の世界へ誘う。

「ねえ、聞いて」

「何だ」

「……子供ができたの」

 その言葉に、ユアンは目を見開く。だが、意外にも冷静に受け止めていた。妊娠など、どうでもよかった。

 それに「妊娠」という言葉は、聞き飽きていた。そして、どうすればいいか対処方法も心得ている。

「……そうか。嬉しいな」

 囁く言葉は、甘い吐息と化す。

 それは耳を撫で、女の全身から力を奪う。

 糸の切れた人形のように、ベッドに倒れ込む。

 容易い。

 冷徹な視線で、見下す。ユアンはベッドの下に隠していあった箱を手に取ると、蓋を開く。

 中に納められていたのは、注射器とアンプル。無表情で注射器に液を入れると、女の首筋にうつ。

 躊躇いはない。

 ユアンにとって、不必要な妊娠の方が困る。

 女は子供を盾に、更に言い寄ってくる。彼にとって女は玩具と同時に、面倒な相手でもあった。だからこそ妊娠が発覚した後、相手に気付かれないように処分する。勿論、検査しても発覚しない薬を使って。

「さようなら」

 再び、耳元で囁く。

 だが、女からの反応はない。

 これは、即効性を期待できる薬ではない。じわじわと身体を蝕み、体内の命を奪う。これこそ、身体構造を熟知しているユアンがなせる技。

 そう、この薬はユアンが特別に作製した物だ。

 特に、罪悪感はない。その証拠に、何事もなかったかのようにベッドから抜け出すと、椅子の上に置いてあったバスローブを手に取ると纏う。これ以上、女に関わることはしない。今日で、関係は終わり。次に、新しい玩具を探さないといけない。興味を失うと同時に、彼は見向きもしない。
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