エターナル・フロンティア~前編~
「どうした?」
「は、はい……そ、それが……数値が急に」
ディスプレーに映し出される数値は、明らかに異常だった。通常の倍以上の心拍数に呼吸数。平常値には見られない脳波。その結果に、男は一瞬過去の出来事を思い出す。死に行く実験体から、同じような結果を得られたことを。その姿に男は、残念そうに少年を見眺めた。
(この少年も、これで最後か。稀に見る力の持ち主であったが、死んでしまうなら仕方が無い。だが本当に、惜しいことだ)
しかし男の考えを無視するかのように、数値は更に異様な変動を見せていく。それにより、科学者達は慌しく動き出す。刹那、少年の息遣いが徐々に荒くなっていき、身体が小刻みに痙攣しはじめる。全身からは大量の汗が噴出し、呻き声に似た奇声を発し苦しみだす。
その時、硝子の内側から切羽詰った声音が響く。男は、慌てて硝子の向こう側の状況を見る。視界に入ってきたのは、恐怖に戦く部下達の姿。それに、激しくのた打ち回る少年。拘束されている手足は擦り切れ、血が滲み出ていた。男はその状況を見て、一目で理解した。
これは死が近いのではなく、暴走だと――
刹那、少年の叫び声が響いた。圧縮された空気が放出され、一瞬にして分厚い硝子と床に蜘蛛の巣のような亀裂が走る。衝撃は床や硝子に収まらず、点滴が入ったプラスチックを砕く。
床に漏れ出る液体からは鼻を突くような臭いがし、明らかに人体に有害な物質が含まれていることを教える。暴れていることに腕に突き刺さっていた針は全て抜け落ち、その部分から血が噴出す。また身体中の毛細血管が浮き出し、刺青を入れたかのような異様な光景を醸し出す。
「鎮静剤を打て」
男は、瞬時に命令を下す。それに対し科学者達は、素直に男の命令に従う。いや、従わなければ最悪の結末がまっている。二人がかりで暴れる少年を抑え付けると、もう一人が薬を打つ為に近付く。
次の瞬間、悲鳴が轟いた。
男を含め全ての者達が硝子の先を見詰めると、手首を切断された者の姿が目に入った。滝のように流れ出る血で白衣を赤く染め、ことの成り行きを掴めないのか身体を震わしている。
抑え付けていた科学者は信じられない状況に、思わず力を弱めてしまう。その隙に少年は、力任せに拘束を引き千切っていく。ブチっと鈍い音と共に、鮮血が周囲に飛び赤い色彩を生む。そして周囲にいた人間を次々に吹き飛ばし、身体につけられたコードを毟り取る。