エターナル・フロンティア~前編~
「わかりました」
言葉と同時に、席を立つ。
そして、エレベーターの乗り場へ連れて行く。
レナが行きたい場所。
それは、研究所の深い位置に存在する。
エレベーターは地下室で止まるが、多くの科学者や外部からの訪問者が使用するエレベーターでは、例の場所に行くことはできない。
研究所に勤めている一部の科学者が持つカードを使用すると、更に下の階へと行けるのだ。勿論、カードを通す機械も隠されている。
「厳重ね」
「あの場所は、特別ですから」
「そう……ね」
「それに、牢獄です」
言葉の意味は、何となくわかる。
レナは彼の義父がどのような状況に置かれているかは、以前ユアンから聞いているので「牢獄」の意味を悟る。
肉体を失い脳味噌だけで、一箇所に縛られている。死にたくても死ねない状況ほど、苦しいものはない。また脳味噌だけになっても利用され続けるのは、屈辱そのもの。自殺さえもできない。
ふと、レナは思う。
肉体という器の中に魂が納まり、人間が人間として生きる。しかしユアンの義父は魂の器が失われているので、魂はどうなってしまったのか。脳味噌だけで生きているが、果たして本人か。
脳味噌に残っている記憶が「彼」という存在を形成しており、後は脳内物質と微弱な電気信号。
それに現代科学が、彼を強制的に生かしている。其処に、不確かな〈魂〉という概念はない。
どちらかといえば、レナは無宗教。そもそも宗教に頼っていては、科学者の職業ができないからだ。
しかし第一線を退き、年齢を重ねると〈神〉という目に見えない者に縋る自分がいることに気付く。
神は、いるかいないか。
以前、ユアンに似たような質問をしたことを思い出す。その瞬間、クスっと笑ってしまう。レナの苦笑に、ユアンは一瞥する。しかし何事もなかったように、壁の一部分を開く。中に設置されていたのは、例のカードを通す機械。それにカードを通すと、エレベーターの扉が閉まった。