エターナル・フロンティア~前編~

 実験台から下りた少年は目隠しを取ると、荒い息の中男がいる方に視線を走らせた。目は充血し、禍禍しい。そして此方を見詰める少年の冷たい視線に、男は背中に冷たいものが流れ落ちる。

 しかし恐怖心より、少年の力に対する魅力を感じていた。それは科学者としての職業がそのように思わせているのではなく、未知の力に対しての純粋な好奇心と表現した方が正しい。

「予想以上だな。なんとしても、取り押さえろ」

「む、無理です。我々では、どうしようもありません」

「行ったところで、殺されます」

 情けない部下達の言葉に舌打ちすると、苛立ちを硝子にぶつける。その時、少年の手が水平に持ち上げられた。緩やかに、ゆっくりと――刹那、一瞬にして少年の表情が変わると、辺りを囲んだ硝子が砕け所々で火花を散らす。同時に機械類が爆発し、ディスプレーに砂嵐が走った。

 科学者達の呻き声が、慟哭のように部屋の中に響き渡る。砕け散った硝子を被り負傷した者や爆発の衝撃で火傷を負った者など様々で、地獄絵図という言葉が似合う状況が広がっていた。その間を抜けるようにして少年は砕け散った硝子の上を歩きながら、男のもとへ向かう。

 誰一人として、少年を取り押さえようとはしない。捕まえようものなら殺されるという恐怖が身体を支配し、動けなかった。その恐ろしい光景に男は震える手で白衣のポケットから携帯電話を取り出し、助けを呼ぶ。

 勿論、軍隊を――

 数分後連絡を受けた兵士達が研究室に駆けつけ、少年を取り囲むように銃を構える。事の状況を男から聞いていたので、彼等の行動素早かった。だが少年は銃を向けられても動揺せず、口許を緩めている。

 隊長の命令で一斉に攻撃が開始されたが、攻撃は少年の届く前に見えない壁によって阻まれ届くことはない。それに続くようにして、少年の腕が胸元から半円を描くように動かされた。

 次の瞬間、身体を中心に衝撃波のようなものが生まれた。それに伴い一斉に兵士達が後方に飛ばされてしまう。すると難を逃れた兵士の一人が軍用ナイフを構え少年に何の計画性もなく飛び掛るが、その無謀とも取れる行動を隊長が大声で制すが、その時点ではもう遅かった。

「……邪魔をするな」

 少年の口が、微かに動く。飛び掛った兵士には何を発しているのか聞き取れなかったがが、自身の身に起こった出来事により内容を把握する。ナイフを握る腕が付け根から吹飛び、更に全身を青白い炎が包み込む。結果、燃え上がる炎により兵士の悲鳴がかき消されてしまった。
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