エターナル・フロンティア~前編~

 カディオ自身、偶然だから仕方がない――と、自分自身に言い聞かせる。だが頭の中でソラの顔が過ぎり、彼を苦しめる。

 すまない。

 悪い。

 謝罪の言葉が漏れ出す。

 カディオは冷たい壁に身を預けると、人々を翻弄する運命を恨む。だが、いつまでもへこんでいる場合ではなかった。人間は、前に向かって歩いて行かないといけない。いつかいい運命に辿り着けることを願い。

 長い溜息を吐くと同時にカディオは壁から身を起こすと、廊下に足音を響かせながら上司がいる部屋の前から離れていく。その時の彼は真っ直ぐな視線で前を見て、これから待ち受ける運命を受け入れる準備を作った。


◇◆◇◆◇◆


 今回のソラの実験に関しては、ユアンは関わっていなかった。彼にとっては、予想外の出来事。部下の報告で知り、慌てて実験の関係者のもとへ急いだ。勿論、抗議をする為である。

「どういうことですか?」

 怒鳴り声と共に、ユアンが実験の主導者のもとへ行く。相手は突然のユアンの登場に目を丸くするが、この場に来ることをわかっていたのか瞬時に冷静さを取り戻し、ユアンに鋭い視線を向けた。

「あれは、お前だけの物じゃない」

「それはわかっています」

 ユアンは高い地位に就いているが、今文句を言っている相手はユアンより立場が上。その為、嫌々ながら敬語を用いる。しかし感情が昂ぶっている為か、所々に汚い言葉が混じる。

「普段のお前らしくない」

「何処が……でしょうか」

「感情的だ」

「それは、貴方が勝手に行なったからです」

 彼の言葉に、相手は身体を震わせながら大声で笑い出す。一言で言えば、その笑い方は下品そのもの。

 ユアンの目の前にいる人物は年上で、正確な年齢は不明だが周囲の話では50を超えている。頭は脱毛が進行しており、前髪から旋毛に掛けて後退していっている。それに脂性なのか、額が輝いている。正直言って、見た目はいいものではない。その人物が笑うのだから、ある意味でセクハラに近い。
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