エターナル・フロンティア~前編~

 彼等の反応は、実に正直だ。だが何の関わりを持たない第三者の意見として、両方の生き物は命を有している――批判と中傷を繰り返すに違いない。だが、発展に犠牲は付き物。マウスを用いるのは尊い犠牲だがユアンの言葉に、部下達は心の底に存在する矛盾に気付く。

 生き物とは何か――

 硝子のように繊細な感覚の持ち主であったら、ユアンの言葉は心に強く突き刺さり脆い一面を表面に出し、ユアンのいい玩具と化してしまうが、目の前にいる者達は大事な部下達。ただ苦笑し、子犬の件に関しては気にしなくていいという。それより、自分を呼んだ理由を尋ねた。

「あっ! そ、それは――」

 彼の言葉に、一人の部下が口を開く。その者は、廊下でユアンに言葉を掛けた人物だった。

 慌てて資料を持って来ると、ユアンの目の前に差し出す。何でも行き詰ってしまったので、的確なアドバイスが欲しいという。しかし部下が持って来た物に目を通すところ、特に指摘する箇所が見当たらない。それどころか、予想以上の出来にユアンは唸り声を上げた。

「ど、どうでしょうか」

「……素晴らしい」

「本当ですか!」

「アドバイスが欲しいと言っていたが、僕が言えるアドバイスはない。寧ろ、このまま進めても大丈夫だ」

「そう言って頂けると、嬉しいです」

 厳しいことで有名な人物を唸らせ褒められたことに、資料を持って来た人物の顔が一気に明るく染まる。

 だが、長々と喜んでいる余裕はない。仲間達の視線が集まり、その中に嫉妬が含まれていた。全身に突き刺さる、どす黒い感情。普段「仲のいい仲間」を演じているが、本心はこのようなもの。

 誰もが上司に褒められることを目標とし、上を目指す。そしていつか、自分の上司を越える。それを目標としているので、一人の「仲間」が褒められると、このように感情を剥き出しにしてしまう。

 勿論、ユアンは部下達の剥き出しの感情に気付いている。また、過去の自分を見ているようだった。

 ユアンは持っていた資料を返すと、嫉妬に彩られている部下達の顔に視線を向け、仕事を行なうように命令を下す。彼曰く、嫉妬している時間があるのなら実験や研究にその時間を費やした方がいい。多少の時間差で、物事が大きく変わる場合があるからだ。これもまた、ユアンの経験上の話。
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