エターナル・フロンティア~前編~
いや、自分の無能さを理解している者は、まだいい方だ。その者は周囲に助けを求め、協力関係を築く。そして、ひとつの物を生み出していく。現に、ユアンが知っている者の中にそのような人物もいる。
一番の問題は自分の無能を理解せずに、下にあれこれと指図する者だ。我儘で融通が利かず、自分の思い通りにならなければ不貞腐れ、周囲が機嫌を取らなければいけない。精神面でいえば小さい子供。
このような者は実在するわけがないと思われるが、実際にユアンの身近にいるのだから困りもの。
早く退治を――
そして、ユアンは怪しい表情を作った。
◇◆◇◆◇◆
長い廊下。人間が歩く分にはたいした距離ではないが、ポテポテと歩く子犬にとって端から端まで行くのには一苦労だ。逃げ出したときから歩き続けていたのだろう、子犬は荒い息遣いをしていた。
特に目的はない。ただ歩き続け、目の前に広がる光景に視線を走らせる。途中、数人の人間が声を掛ける。しかし、人間にいい印象を抱いていない子犬。低音の声音で鳴き、威嚇する。
子犬の予想外の反応に、声を掛けた方は一瞬にして興味を失ってしまう。尻尾を振り愛嬌を振り撒けば、声を掛けた人間も子犬を可愛がっただろう。威嚇する子犬に舌打ちすると、すぐに立ち去ってしまう。
声を掛けた人間が、行ってくれた。そのことにホッとする子犬だったが、同時に寂しさが込み上げてくる。人間に対していい印象を抱いていないとはいえ、ペットとして購入され一時期飼い主と暮らしていた。その為、本心の部分では「いい人間」を捜していたのだった。
暫く、行き交う人間の流れを眺めていた子犬。長く歩いていた為に喉の渇きを覚えたのか、水を求めた。
ふと、扉が微かに開いている部屋を発見する。子犬はその隙間から部屋の中に入って行くと、ディスクの上に置かれているマグカップに気付く。この中に飲み物が入っているということを知っている子犬はディスクの上に飛び乗ると、マグカップの中に口を突っ込んだ。
しかし液体を飲む前に、マグカップの持ち主――二十代後半の男の怒鳴り声が響いた。男の声に子犬はピクっと身体を震わせ顔を上げると、持ち主の顔を見詰める。そして慌ててディスクから飛び降りようとしたが、その前に男が子犬の身体を手で叩く。刹那、子犬の甲高い悲鳴が響いた。