エターナル・フロンティア~前編~
「こいつがどうなってもいいのか」
「何?」
「お前が同意しなければ、こいつを奴に食わせる。こいつはお前に懐いているようだから……」
男の言葉に、ソラは苦虫を噛み潰したような表情を作る。まさか、子犬を使って交渉してくるとは――
科学者全てに当て嵌まるわけではないが、悪知恵に関してはよく働く。それに、笑い方が下品だ。
相手が一人だったら力を使用し吹き飛ばしていたが、彼の手には子犬がいる。子犬がいる状態で使用したら、命を簡単に奪ってしまう。ソラは子犬に対して特別な感情を持っているので、力の使用は好ましくない。
一方、子犬もソラに懐いている。その証拠に、ソラに視線を向け切ない声音で鳴いていた。
この状態では、ソラの方が負け。いや、子犬を奪い取られた時点でソラに勝ち目はなかった。
「……わかった」
無駄な争いは、しない方がいい。それに勝ち目のない戦いに挑むのは、馬鹿である。何より、子犬を犠牲にしたくない。ソラは俯き、自身の役割を果すから子犬を放して欲しいと頼む。
しかし、男が子犬を簡単に放す訳がない。此方に子犬がいれば、ソラが言うことを聞くのだから。
男が子犬を放してくれないことに、毒付く。相手は、この状況を楽しんでいる。彼にとっていいストレス発散の対象になっているのだろう、ソラを見下すような視線を向けている。
人間は自身より下の人物を見付け、その者を見下し自分の位置を確かめる。また、相手を見下すことにより自分の方が素晴らしいと確信している。以前、タツキがそう言っていたことを思い出す。
今、男はソラを見下し自分の方が偉いと自分に言い聞かせている。それが気分的にいいのか、時折声音が裏返る。
こんな奴に――
ソラの本音は、このようなもの。しかし本音を言葉に出した瞬間、子犬がどのような目に遭うかわかったものではない。
何故、子犬を求めるのか。ソラの周囲に、仲間は存在している。だが普通の人間に比べると、明らかに少ない。そして、孤独の中で生きている。その中に登場したのが、一匹の子犬。内心、飼い主がいなければ自分が飼ってもいいと思っている。だからこそ、ムキになってしまう。