エターナル・フロンティア~前編~
(……お前)
見た目とは裏腹に、優しい生き物。ソラは頭の上に手を乗せると、感謝の言葉と共に軽く擦っていく。掌から伝わる優しい温もりが気持ちいいのか、目を細め喉を鳴らしはじめた。
普段、科学者達に強い憎しみを抱いている。嫌い、邪魔――身体から大量に放出するのは、負の感情。しかしソラに同種の臭いを感じ取ったのか、全く負の感情を感じ取れなかった。
すると合成獣(キメラ)の足下にいた子犬が、可愛らしい声音で鳴く。子犬の方も気に入ったのだろう、小さい前足で合成獣(キメラ)の身体に触れる。実に、微笑ましい光景。だが、その微笑ましい光景を認めない人間も存在した。
多くの科学者を含め彼等は、血生臭い光景を求めていた。皮を剥ぎ肉が抉れ、血が噴出す。獣は相手の肉を求め飛び掛り、人間は自身の命を取られないようにと足掻く。流れ出た血は雑じり合い、鼻を突く香りと化す。
どちらかが死ぬまで続けられる、哀しく切ない戦い。それを観て興奮し、他の人間が体験できないことを体験しているという優越感を味わいたかった。だが、それは夢で終わった。
一人と一匹は、戦う気配がない。それどころか、互いが置かれている運命を悲しみ合っている。
「何をしている」
その時、誰かが言葉を発する。すると、その言葉に釣られるように見物していた人物達が次々と口を開く。
我儘な言葉の数々に、聞いていた科学者達はげんなりとした表情を作るが、彼等も内心「つまらない」という気持ちを持っている。命令を下した上司を含め、科学者達が一箇所に集まる。
どうする。
一人の科学者が不安たっぷりの言葉を出すが、他の科学者がその者の言葉を遮る。どうすればいいかは、最初から決まっていた。使えない物は、切り捨てればいい。しかし簡単に切り捨てては、面白くない。
現在の状況を見ている者達が求めているものを提供すれば、満足してくれる。それを与えればいい。
それが、上司が出した答え。
上司の男は不適な表情を作ると、人差し指で自身の胸を叩く。それが、合図でもあった。その合図を受け取った数名の科学者が、何やら作業を仕出す。残酷なものは、とことん残酷である。
それを表面に表したのが、数秒後に行なわれたこと。鈍い音が、ソラの耳に届く。その瞬間、彼の視界は真っ赤に染まった。