エターナル・フロンティア~前編~

 生暖かく、ねっとりとした液体。それが、ソラの顔を伝う。最初、何が顔に付着したのか理解できなかった。しかしこの嗅ぎ慣れた独特の匂いに、真紅の液体。その両方から、付着したのが血液と知る。

 ソラの身体から、血液は流れ出ていない。そしてこの場所で血を流す生き物は、限られている。

 なら――

 反射的に、視線を下げる。

 刹那、ソラの絶叫が響いた。

 足下で、大量の血が広がっていた。その中心で倒れているのは、先程自身に懐いていた生き物。一体、何が起こったのか理解できない。ただ唯一わかるのは、血の海の中で死んでいる。

 その側で、子犬が首を傾げている。まだ「死」という概念を理解できないのだろう、動かなくなってしまった合成獣(キメラ)の身体を前足で触れ、早く起きて遊んで欲しいとせがむ。だが、命は肉体という器から外に出てしまった。いくら前足で触れ揺らしても、身体は動かない。

 切ない子犬の行動に、ソラは身体を抱き上げ胸元に抱く。これ以上、死の姿を見せたくなかったからだ。

「お前が、行なわないからだ」

 男の声と同時に、扉が開いた。聞き覚えのある声音にソラは振り返ると、相手を睨み付け口を開く。

 何故、殺した。ソラが発した質問に、相手は肩を竦める。この質問は男にとって、愚問であった。いや、男というより科学者の大半がこの質問に対し「愚問」という回答を返した。

 所詮、自分達が造った合成獣(キメラ)は実験道具。どのように生き、どのように死のうが関係ない。また、廃棄処分を決めるのは自分達。そのような理由で、遠隔操作で命を奪い取ったという。

 この生き物は、利用価値が高く貴重な存在。本来であったらこのような形を取りたくはなかったが、欠点が生じてしまったので殺した。そう、戦うべき両者が馴れ馴れしく寄り添ったからだ。

「だからって……」

「支配できない者は、いずれ我々に牙を向く」

 だから、あのような形で殺した。両者を天秤に掛けた場合、どちらを排除すればいいかは簡単に決まる。例の生き物は、科学の力でこの世界に誕生させた。

 なら、また必要となったら同じように造りだせばいい。必要なデータと作成過程は、資料として残されているという。複製は簡単だ。男は自分達が持つ素晴らしい科学力を自慢するように、長々と語ってく。
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