エターナル・フロンティア~前編~

 徐々に、息苦しくなっていく。反射的に力を使用し逃れようとするが、その前に子犬が攻撃を仕掛けていた。

 ソラの腕から飛び出た子犬はユアンの腕に飛び付き、噛み付く。子犬はソラに信頼を置いている。その信頼を置いている人間を苛める人物は、子犬にとっては排除の対象であった。

 憎しみを秘めた瞳が、ユアンを見据える。元から子犬は、人間という生き物を嫌っていた。特にユアンの場合は強い拒絶反応を示し、攻撃に至る。特に、外見を嫌っているわけではない。

 彼が発している独特の負のオーラを本能で感じ取り、その部分を嫌っていた。今回加わったのが、信頼の対象であるソラに攻撃を仕掛けたということ。これは子犬にとっては決定的な事件であり、相手に牙を向く。

 牙が食い込んだ箇所が、キリキリと痛み出す。ユアンにしてみればこれくらいの痛みは堪えられるが、どちらかといえば鬱陶しい痛み。それに子犬が向ける瞳が、気分を害していく。

 ユアンは子犬の首筋を掴むと、無理矢理腕から剥がす。剥がされた子犬は空中で暴れ、唸り声を発する。

 このまま床に落としてもいい。しかしこれくらいで落とすのは大人気ないと考えたのか、ソラを開放したと同時に子犬を突き付けた。

「何故……」

「理由か?」

 質問に対し、質問で返す。だが、ユアン自身も明確な理由はわからないでいた。ひとつだけ理由を上げるとしたら「飽きた」というのが正しい解答だった。その原因は、子犬である。

 小さい身体で懸命に立ち向かってくる姿は、実に健気だ。そのことに感動を覚えたというわけではないが、これ以上子犬相手に何かをやらかすという感情が湧いてこなかったのだ。

「その子犬は、どうするんだ?」

「……飼う」

「そうか。いい飼い主になる」

「経験?」

「まあ、そういうものだ」

 先程ソラの首を絞めていた者が発している言葉とは思えないほど、優しい声音だった。これがユアンの特徴であり、他の人間を騙す方法だ。ソラはユアンの本質を知っているので、この変化を驚かない。

 だが、不満の部分がないわけではない。ユアンの本質を知っていても、突然の変化によって降り掛かってくる災いはいいものではない。そのいい例が、首を絞めたこと。
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