エターナル・フロンティア~前編~
ソラが部屋の中心部分へ向かうと、数人の科学者が彼の側に近寄ってくる。彼等は緊張しているのか表情が強張り、小声で「動くな」と命令を下すが、ソラは暴れる素振りは見せない。ユアンとの約束が――というのが半分の理由で、もう半分は暴れてもいいことがないと諦めが混じっていた。
ソラの身体に、機械を装着していく。これもまたいつもの出来事のひとつに過ぎないのだが、彼が腕に抱いている子犬は不満たっぷりの表情を作り、機械の配線に鋭い牙を突き付けた。
「あっ! こいつ」
大事な人間を早く解放したいと思っているのか、子犬は何度も配線を噛む。科学者達にとって子犬の行動は「おいた」という形で片付けられるものではない。業を煮やした科学者の一人が手を伸ばし子犬を掴もうとしたが、その前にソラが子犬の頭を撫で噛むのを止めた。
「こいつを……お願いします」
子犬を両手で掴むと、科学者達の目の前に差し出す。最初誰も手を出そうとはしなかったが、三十代前半の女が子犬に手を伸ばし自分の腕に抱く。ソラ以外の人間に抱かれたことに当初は苛立ちを覚えていた子犬であったが、女の氷のように冷たい瞳に身体を震わせた。
「ラドック博士を困らせる者は、この私が許しません。この犬は私が何とかしますので、他の方々は宜しくお願いします」
「わ、わかりました」
女の迫力に負けたのか、他の科学者達が女の言葉に従う。一方子犬を抱く女は冷静な態度を崩さず、部屋の隅に行き子犬を置く。そして無表情のまま持ち場へ戻ると、仕事を開始する。
女の一連の動作を眺めていたソラは、ひとつの予想を立てる。多くの科学者がユアンを尊敬しているが、彼女の場合は何処か違う。尊敬や敬愛という言葉では表現できず、別の“何か”があるというのは間違いない。
ああ、女か――
ソラは声に出さずに、心の中で呟く。ユアンの派手な女性遍歴を考えれば、それが適切である。
しかしユアンの女性遍歴を追及するほど、ソラはスキャンダルを望んでいるわけではない。それに追求したところでいい回答が得られるわけではなく、逆にユアンの機嫌を損ねると経験で知っている。
無言のまま、科学者の仕事が終わるのを待つ。そして全ての機械がつけられた後、自分の両手や身体に視線を向けた。これもまた見慣れた光景なので、特に表情を表面に出すことはしない。この先、感情もそうであるが心の中を無にする。そうでなければ、耐えることができない。