エターナル・フロンティア~前編~
幸い、相手に気付かれていない。ユアンはクリスの前を素通りすると、医務室へ入って行く。
(怪我……か)
あの図太い神経の持ち主が、病に罹っているというのは考えにくい。それなら殺害の時に負った傷の手当てを考えるのが妥当だ。しかしその考えは半分正しく半分間違っているのだが、クリスは真相を知らない。
(まあ、得をするのは奴か……)
ユアンの医務室へ行った理由を正確に見抜くことはできなかったが、今回の件での損得に付いては正確に見抜いていた。彼は多くの知識を有し、カリスマ性も持っている。何より若く、指導力が高い。
また見た目もいいので、女性ファンが多い。ユアンのいい面を上げていくうちに自分が持っていない物を複数持っているユアンに対し嫉妬心が湧いてくるが、どのように足掻いても勝つことはできない。
だがクリスが上げたいい面を総合すると、ユアンに軍配が上がる。一部の者達だが、上で命令を下す者――特に年老いた者を疎ましく思っている。それらを総合すると、やはりユアンの方が有利だ。
(ユアンが上司か……)
まだそれを考えるのは早いことだが、近いうちにそれが現実になるに違いない。いや、必ずなるだろう。
(これも報告か)
ユアン同様に物事を見抜くのが上手いタツキであったら、これくらいは簡単に予想付いているに違いないが、一応ということでタツキに報告することにするが、それは今ではない。
使用していた携帯電話を白衣のポケットに仕舞い込むと、トボトボとした足取りで廊下を歩く。
途中、同僚が声を掛けてくる。
「捜したぞ」
「うん? 何だ」
「仕事が終わっていないのに、何処へ行っていたんだ。終わらないと怒られるのは、俺なんだぞ」
「ああ、悪い」
「お前な……」
のほほんっとしているクリスの態度に、同僚の男はやれやれという形で肩を落とす。しかし、これは演技で行なっていることで、相手が怒る理由は理解している。下手に言い訳をするのは逆効果なので、敢えていい加減を演じる。結果、相手も怒る気力を失ってしまう。