エターナル・フロンティア~前編~
建物の中に響く両親の声。
ソラは耳を塞ぎ、両親の声を遮る。
できるものなら、両親が普通の会話をしていることを願った。でも、ソラの願いは虚しくかき消される。
母の悲鳴に似た声音によって――
(どうして怒鳴っているの……)
懸命に勇気を振り絞りソラは両親の声が漏れる部屋の前まで行き、扉の隙間から顔を覗かせる。
本来であったら、このようなことはしてはいけない。だが、両親が喧嘩している理由(わけ)を知りたかった。
でも、本当は知ってはいけない。
しかし、好奇心の方が勝ってしまう。
「私はもう耐えられない」
美しく長い漆黒の髪を振り乱し、母親は父親に向かって叫んだ。目元と口許には年齢以上の深みを感じ、細く痩せこけている。
テーブルの上に置かれているのは、ウィスキーのボトルとグラス。そのグラスの中にはウィスキーが注がれ、先程まで母親が浴びるように飲んでいた。それも水で割ることもなく、原液で――
「何を言っている。お前がいなくなったら、あいつはどうするんだ。お前は、母親じゃないか」
「あなたはそればっかり。仕事が忙しいと言って、私の話を真剣には聞いてくれない。今だから言うわ。私は怖いのよ」
「怖い?」
不思議な発言に父親は問い返す。その父親の服は乱れていた。どうやら酒に酔い、暴れた母親と何かあったようだ。いつもは淑やかで、優しいという印象のある母親。しかし今は、そんな面影さえない。
ソファーに座り酒を呷る姿は、酔っ払いにすぎない。変わり果てた母親の姿に、ソラは別人を見出した。
再びボトルからウィスキーを注ぐと、一気に飲み干す。アルコールの力で、全てを忘れようとしているかのように。
「そうよ、怖いのよ。あの子を見ているのが。日に日に私の子供ではなくなっていく、違う子供に変わっていく。幼い頃は、あんなに可愛かったのに……全ては、あの不可思議な力のせいよ。どうして、どうしてあのような力を持っているの? どうして持って生まれてきたの? そうだわ。アナタが私が知らない間に、取り替えてしまったのね。何処にいるの、私の本当の子供は? 一体、何処に行ってしまったの? 教えて……ねえ、教えなさい!」