エターナル・フロンティア~前編~

「私の可愛い子。本当に可愛いわ。それなのに、どうして私においたばかりするの? 困らせてそんなに楽しい?」

 先程とは別人のように、ソラを慈しむように髪や頬に触れてくる。だが母親の双眸には生気が感じられず、死神にとりつかれているようだ。そっと両肩に手を乗せ、額にキスを落としてくる。

 ソラは母親にキスされたことに羞恥心を感じたのか、母親から離れる素振りを取ってしまう。

 息子の態度が逆鱗に触れたのか、母親の表情が変貌する。母親の表情は、物語の中に登場する魔女そのもの。ソラの顔に爪を立てると徐々に力を込め、顔の皮膚を引き裂こうとする。

「どうして私を拒絶するの? やはりアナタは、私の子じゃないから……何か言いなさい!」

「痛いよ。やめてお母さん」

「ああ、アナタが入れ替わってしまったのね? そうよ、そうに決まっているわ。悪い妖精が、私の子と交換したのよ」

 ソラの身体を押し倒し、両手で首を絞め上げる。空気を失ったことにより意識が遠くなってくるが、懸命に首を絞める腕を振り解こうと母親の腕に爪を立てた。皮が擦り剥け血が滲み出るが、母親は力を弛めない。寧ろ何かに力を借りているかのように、力が強まっていく。

「何している!」

 父親がソラから引き剥がそうと、飛び掛った。しかし母親はテーブルに置いてあったグラスを握り締めると、力任せに夫の頭を殴り付ける。刹那、空中に砕けた破片と血が飛び散る。

 殴られた衝撃で床に崩れ落ちる父親。その時、一瞬の隙が生まれたことによりソラは解放される。

 転びそうになりながらもその場を逃れると、頭から血を流している父親のもとに駆け寄った。

 正常な呼吸が取り戻されたが、まだまだ息苦しい。だが、早く父親の傷の手当てをしなければならない。ソラはテーブルクロスを力任せに引き千切ると、呻く父親を泣きながら止血する。

 幸いなことに、出血が少ない。ソラは怪我が酷くないことに胸を撫でるが、母親の変化に身を竦める。

 悪魔……ソラはそのように確信する。悪魔は人の心の弱みに付け込み、相手の全てを支配してしまう。支配された人間は理性を失い、凶暴化する。だが、悪魔という生き物は架空の存在なので、ソラの母親は自ら悪魔という生き物を生み出し、それに支配されてしまった。
< 553 / 580 >

この作品をシェア

pagetop