エターナル・フロンティア~前編~

 その時、ドアが開く音が響く。それと同時に、子犬の甲高い鳴き声が続き黒い物体がベッドに飛び乗って来た。

 黒い物体の正体は、ソラだけに懐いている子犬。暫くの間、大好きな人間と離れ離れになっていたことが相当哀しかったのだろう、全身でソラの身体に擦り寄り甘えた声音で鳴く。

「その犬の人間嫌いは、相当なものだ」

 子犬の鳴き声に混じるように響いたのは、ユアンの声音だった。彼はソラが横になっているベッドに近付くと態とらしく肩を竦めつつ、ソラに懐いている子犬に冷たい視線を落とす。

 ユアンの視線を感じ取った子犬はピクっと身体を震わすと、ソラの身体の下に潜り込もうとするが、なかなか身体を潜り込ませることはできない。それでも懸命に身体を潜り込ませようと、後足に力を込め臀部を振る。子犬の可愛らしい姿にソラは口許を緩めると、両手で身体を掴んだ。

 突然身体を掴まれたことに暴れ出す子犬だったが、掴んでいる人間がソラと気付くと急に大人しくなる。

「実に、わかりやすい」

 これほどわかりやすい態度を取られると、実に清々しいという。それにもとより、子犬に好かれようとは思ってはいない。

 それだというのに、ユアンは子犬をソラのもとへ連れて来た。好かれなくてもいいというのなら、このようなことは行なわないはず。いつもの気まぐれが関係しているのか。ソラは、理由を尋ねた。

「最初、部下に世話を任せた。しかし世話する人間が気に入らなかったのだろう、噛み付き引っ掻き暴れ……酷いものだ」

 ソラ以外の人間は嫌い。

 ソラ以外の人間に世話されたくない。

 何より、近付くな。

 様々な感情が入り混じった結果、子犬は自分を世話してくれる人間に襲い掛かった。世話する側も子犬ということで甘く見ていたが、後でその考えを訂正することになる。今、多くの者達が手当てを受けているという。

 部下達から真相を聞いたユアンは、顔を引き攣らせたという。正直、このようなことがあるのでユアンは、生き物を飼いたがらない。その後、手に負えなくなった子犬はユアンに預けられ、今に至る。

 元気がいいことは何よりであるが、この子犬の場合は元気がよ過ぎる。以前の飼い主がきちんと躾をしていないのが全ての原因だろう。後々きちんと躾を行なわなければいけないと、心の中で誓う。しかし、今まで生き物を飼ったことのないソラは躾の知識は持っていない。
< 555 / 580 >

この作品をシェア

pagetop