エターナル・フロンティア~前編~

「ああ、殺害したか」

 ユアンの感情の篭っていない声音によって、ソラは平常心を取り戻す。視界に映し出された光景は生々しいもので、機械に触れていた手は生暖かい赤い液体で染まり指の先から滴る。

「まあ、こうなることは仕方がない。義父はそれだけのことをしたのだから。君の義父を殺害した」

 ユアンの言葉はソラを追い詰めようとして言っているのではないが、彼が発する「殺害」という単語にソラの身体が小刻みに震え出し、自分がリダードを殺害してしまったことを突き付けられる。

 リダードは、ソラの父親アレクの殺害に関わっている。そしてソラは、そのリダードを殺害した。父親の復讐の為に殺害したのだから正当な行為――と捉えられなくもないが、ソラの繊細な心には今回の件は重く圧し掛かってしまう。また過去の出来事を思い出し、発狂寸前に陥る。

 ソラの精神状態がギリギリの位置にあることに気付いたユアンは、破片が突き刺さりボロボロになっている白衣を脱ぐと、ソラの顔を自分の胸元に押し付けると「大丈夫だ」と言い精神の安定を図る。

 置かれている立場は異なるが、両者は何処か似ている者同士。ユアンはソラの心情を把握できるのか、今彼が欲する言葉を発していく。するとユアンの言葉が心に染み込んだのか、ソラは大声で泣き嗚咽を漏らす。

 しかし、現在の状況を気にいらない者が存在した。その者はソラに抱かれているリオルで、自分ではなく敵対しているユアンを頼っていることに不満を抱いたのか、リオルは鋭い爪でユアンの腹を掻いた。

「嫉妬しているのかね」

 リオルに人間の言葉が理解できるわけがないが、ユアンの態度と言葉の抑揚から何を言っているのか判断できたのか、リオルは牙を剥き出し威嚇行動を取るが、ソラに抱き締められているので噛み付くことはできない。ただ四肢をばたつかせて、怒りを外に放出していた。

 嫉妬心剥き出しのリオルの姿にユアンは微笑を浮かべるが、瞬時にいつもの厳しい表情に変化すると、この状況の報告の理由を考え出す。素直に真相を話すのもいいが、今回は隠す方が得策。

 それに過去の義父のやり方を思うと、リダードを徹底的に悪人に仕立て上げたかったので、リダードがソラを挑発した結果、自身が自爆してしまった。という形が一番いい理由になる。

 それに自爆したというのは、真実である。そもそもソラの父親アレクを殺害していなければ、このようなことにはならなかった。いや、そうしたらソラを手に入れることはできなかった。それを思うとリダードは、ユアンに利点に働くことを行ない無様に死んでいった。
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